日本語図書案内

日本語教育 図書・教材案内 23 号 2014.12
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日本語教育 図書・教材案内 23 号 2014.12

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みなさま、いかがお過ごしですか。
第23号の「日本語教育 図書・教材案内」をお届けいたします。
このニューズレター・メルマガはBccでお送りしております。配信をご希望でない方は、返信の形でご連絡ください。お知り合いの先生で、興味をお持ちの方がいらっしゃいましたら、どうぞご紹介ください。バックナンバーは香港日本語教育研究会のWebsiteでご覧いただけます。
http://www.japanese-edu.org.hk/

1. 『日本語教育と日本研究における双方向性アプローチの実践と可能性-第9回国際日本語教育・日本研究論文集』 
編者:第9回国際日本語教育・日本研究シンポジウム大会論文集編集会
出版社:ココ出版
発行日:2014年11月20日
ISBN:978-4-904595-52-7

2012年11月に香港城市大学香港城市大学で開催された「第9回シンポジウム」の成果をまとめた論文集です。
内容は大きく分けて「教室外・多様化する学習」「実践研究」「言語習得」「言語学」「ストラテジー・ビリーフ」「教師・カリキュラム」「異文化と教育の背景」「文化資源と交流の歴史」「政策・消費と文化アイデンティティ」となっています。シンポジウムのテーマ「双方向性アプローチ」を重視し、日本語教育・日本研究の2つに分けて考えるのではなく、両分野の論文が含まれているテーマもあり、多面的に日本語教育・日本研究を捉えることを目指しています。
書籍は994ページと重量級ですが、電子版もあります。
電子版:http://www.shinanobook.com/genre/book/3071

2. 『日本文化60詞』 (使用言語:中国語) 
著者:何 志明
出版社:匯智出版
発行日:2014年11月
ISBN:9789881299529

香港中文大学の日本研究学科副教授、何志明先生が書かれた一般教養のための本です。日本言語、社会、文化など各分野についていろいろな項目が取り上げられ、分かりやすく解説されています。中国語(中文)で書かれていますので、日本語ができなくても、日本に興味を持つ人なら、中・高校生から社会人まで幅広い年齢層の方々に適しているのではないかと思います。
 テーマは大きく「現代社会事情」「伝統文化」「近代・現代社会と文化」「日本人の価値観」の4つに分かれており、その中で「お笑い芸人」「電車男」「能楽」「花道」「居酒屋」「コンビニ」「曖昧」「根回し」など、それぞれ10以上のトピックが扱われています。ジャンルによってはすでによく知っているという方があるかもしれませんが、異なる4つの分野に渡っていますので、どなたが読まれても新しい発見があるのではないでしょうか。
それぞれのトピックは2~4ページ(1ページ700字ちょっと)程度のものが多く、手軽に読める長さです。
以下に、本のそでにあった香港城市大学専上学院の高橋李玉香博士の推薦の言葉を翻訳し、ご紹介します。
「本書を通じて、日本社会の問題や生活習慣、人生観、価値観などに関する理解を深めていただけることと思います。日本に関する仕事をしている方々や日本文化を学ぶ方々には参考書として、また、日本文化の中心的な点が取り上げられていますので、日本に興味を持つ方みなさんにお勧めしたい一冊です」。(原文は中文)

3. 『なぜ日本は若者に冷酷なのか-そして下降移動社会が到来する』 
著者:山田 昌弘
出版社:東洋経済報社
発行日:2013年12月
ISBN:978-4-492-22335-2

「パラサイト・シングル」「婚活」などの言葉を生み、香港で今年11月開催された第10回国際日本語教育・日本研究シンポジウムの基調講演者としてご講演された山田昌弘先生の比較的最近の著書から1冊をご紹介いたします。
本書の帯には、「『超』階級化する日本 親依存できる社会が終わりを告げる時、アンダークラス化した若者が大量に出現する!!」とあります。そして[本書の主な内容] として以下のようなものが挙げられています。「若者に冷たい社会 子どもにやさしい親」「生活レベルが親世代より低下する◆下降移動社会の到来」「就活以外の選択肢がない学生たち◆大学の高校化が進んでいる」「なぜ若者は恋人を作らないのか◆消極化する男女交際のテコ入れが必要」「投機化する教育◆学歴を費用対効果で格付けする」「家族をやめるという選択肢の広がり◆近代社会イデオロギーの崩壊」。テーマを見ただけでもいろいろ興味をそそられますが、実際に、社会学の調査や研究に基づいた説得力のある、そして、怖い内容でもありました。本当に、日本の将来は大丈夫なのだろうか、日本の政治は誰を優先にしているのだろう・・・といろいろ考えさせられます。
内容は深いのですが、簡潔でわかりやすい文体でかかれており、各章がさらに1、2ページの短いセクションに分かれていますので、日本語学習者のための読解教材としても使いやすいのではないかと思います。
最近の著書には、このほか「「家族」難民 生涯未婚率25%社会の衝撃」もあります。インターネットで見つけた本書の紹介を引用しますと「このままでは、年間20万人が孤立死する!? 若者の未婚化・シングル(単身)化が進む日本の未来に警鐘をならす!」とあります。シングルで、「孤独死予備軍」の一人である私は、まだ読む勇気がわきません。衝撃的なだけでなく、救いのある内容だといいのですが・・・。

4. 『中級からの日本語プロフィシェンシーライティング』 
著者:由井紀久子・大谷つかさ・荻田朋子・北川幸子
出版社:凡人社
発行日:2012年10月
ISBN:978-4-89358-842-5

2015年3月開催予定の「香港日本語教育セミナー」でご講演予定の由井紀久子先生を中心として作られた作文(ライティング)教材です。
「はじめに」には「この教科書は、日本語レベルが中級中期以上の学習者が、パソコンのメールや携帯のメールだけでなく貼り紙や自己PRなどを書く際のコミュニケーションの力、つまり、「プロフィシェンシー」を高めることを目的に作られました。・・・プロフィシェンシーを高めるためには、何をどう書いたらいいのかわかることが大切です。そのためには、[対人性]と「場面性」に注意を向ける必要があります。」とあります。
各課は「アポイントをとる」「アドバイスを求める」など実践的な学習目標が掲げられています。以前にもあったようなテーマですが、本書では、異なる相手による文体の選択が練習できるようになっており、フォーマル・インフォーマル、場面による丁寧さの切り替えなどの練習ができようになっています。
授業では、時間的制限もあって、フォーマルな言い方を優先して教えることが多いと思います。そこで、同年代の同じような興味を持つ人とのコミュニケーションしたいと思っている学習者には、自習の形でこの教材を見てもらい、わからないことについて先生が助言するという使い方もできるかもしれません。
自習で使うことをお勧めするようなことを書いてしまいましたが、この教材には、学習者どうしで話し合ったりする活動もたくさん含まれています。自習に使ってしまうのはちょっともったいない気もします。

5. 『はじめよう、ロジカル・ライティング』 
著者:名古屋大学教育学部付属中学校・高等学校国語科 
出版社:ひつじ書房
発行日:2014年5月
ISBN:978-4-89476-700-3

前述の『中級からの日本語プロフィシェンシーライティング』は、メールを書く、などのプロフィシェンシー重視だったのに対し、本書は、「中学生から学びはじめられる、おそらく初めての論理的思考、論文的文章作成法の教科書」ということです。本来は、日本人の中学生や高校生を対象に書かれた教材ですが、外国語として日本語を学ぶ学習者、特にエッセイを書くことやプレゼンテーションをすることが課題とになっている学生にも、もちろん役立つと思いますし、先生方にも、ご指導のヒントになる点があるかもしれません。
本書は「意見文」を書くということ、つまり、自分の意見を論理的に伝える、意見を主張する文章が書けることを目指しています。第二部基礎編では「意見文のつくり」、「『話題』と『主張』を書く」、「『理由』を書く」、「『説明』を書く」「意見文をチェックする」という内容が扱われ、第三部発展編「他者の成果を生かして考える方法」では「他者の考えとよりよく関わるために」、「要約から吟味、提案へ」、「データを使って立論する」とあり、第四部では「資料や他所の意見を取り込むために-引用の方法」からはじまって、実際の課題が並んでいます。このように挙げてみて、キーワードである意見・話題・主張・理由・説明・要約が、HKDSEのスピーキングのプレゼンテーションでの評価基準とかなり共通していることに思い当たりました。要するに、今、世界で、中学・高校のころから、ロジカル・ライティングの能力が求められているということだと思います。
 

1.の論文集は研究会に、それ以外は私の手元に1部ずつありますので、閲覧をご希望の方は、まずは、メールでご連絡いただければと思います。


推薦の言葉を引用させていただき、原稿作成にご協力くださった、香港城市大学専上学院の高橋先生、ありがとうございました。
ちょっと寒くなってきましたね。試験関連の業務でお忙しい先生方も多いのではないかと思います。
どうぞお体にはくれぐれもお気をつけて、良いクリスマスとお正月をお迎えください。

国際交流基金 海外派遣日本語教育専門家(香港日本語教育アドバイザー)
宇田川洋子