桜美林大学院修士・香港日本文化協会日本語講座非常勤講師
梁 凱傑
海外で日本語を学ぶ学習者らの聴解能力は読解・文法といった能力に比べ低いということが指摘されている 。一例として、2008年と2009年のそれぞれ第一回目の日本語能力試験の平均点を見ると、日本国内と海外のどちらの受験者も語彙・文法の部と読解の部では平均60%以上の正解率があるにも関わらず、海外の受験者は聴解の部だけは平均点が低く、どちらも60%以下という結果になっていた。この事実を鑑みると、海外で学ぶ日本語学習者は日本国内で学ぶ学習者に比べ平均的に聴解の能力は読解や文法より低いということが考えられる。聴解力が弱い原因の一つとして、香港を含む海外の日本語教育の現場では文法重視の授業が主流になっていることが考えられる。そのような文法重視の方法では、聞くことに関する確立した指導方法がなく、試験問題を解くためのドリル練習に偏っており、教師らは本来聞くために必要とされるスキルやその養成方法について深く理解するには至っていない。横山(2004)はこれまでの聴解、聴解ストラテジーに関する重要な先行研究を概観し、聞き手のストラテジーの使用およびその効果について検証したものが圧倒的に多い一方で、その教育実践に関するデータが少ないことを指摘している。
本発表では、海外の日本語教育における聴解指導の問題を打開するために、筆者が昨年香港の日本語教育機関で行った聴解ストラテジーを取り入れた授業実践とそれを分析した結果を報告する。そして、ご出席の先生方からもコメントをいただきながら、参加者とともに香港における聴解ストラテジーの導入・実践の可能性について共に考えたいと思う。
引用文献
財団法人 日本国際教育支援協会 日本語能力試験 ~2008(平成20年度)
-実施状況-(5) 平均点等 http://www.jees.or.jp/jlpt/pdf/2008/08scr_07_12.pdf (2009年10月2日)
財団法人 日本国際教育支援協会 日本語能力試験 ~2009-1(平成21年度 第一回)-実施状況 -(5)平均点等 http://www.jees.or.jp/jlpt/pdf/2009/07-scr-08.pdf (2009年10月2日)
横山紀子 (2004)「第2言語のおける聴解ストラテジー研究:概観と今後の展望」『第二言語習得・教育の研究最前線-2004年版-』, 184-201