月例会発表概要

ポライトネス(politeness)とは何か
-授業の中の丁寧だけどインポライトな日本語-

香港大学日本研究学科
橋本 拓郎


以下のaとbの場面の発話について、みなさんはどう思いますか?

a. 昼、会社員が同じ年齢の同僚に会社のロビーで会ったとき
  「こんにちは、お元気ですか」

b. 学生が同級生にペンを借りたいとき
  「ペンを貸していただけませんか」

どちらも何だか違和感がありますよね。では、教科書で習った正しい表現・文型なのに、どうして変だなと感じるのでしょうか。これはBrown & Levinson(1987)のポライトネス理論を使うと、簡単に説明することができます。

ポライトネス理論では、「丁寧さ」だけでなく、「親しさ」を表現することも「ポライト」であると考えます。つまり「親しさ」の表現が期待される場面では、「親しさ」を表現することが「ポライト」であり、「丁寧さ」を強調した表現を使えば「インポライト」(相手を不快にする)と判断されかねないのです。

aとbの場面では、親しい者同士にも関わらず、「親しさ」よりも「丁寧さ」を表現する発話なので変だと感じるのです。

多くの教育現場では、敬語などを使った「丁寧さ」に焦点を当てることは多いのですが、「親しさ」の表現方法はあまり教えられていないのではないでしょうか。

実際のコミュニケーション場面を考えたとき、教科書のように敬語を使って「丁寧」に話すと、「インポライト」になることがよくあります。教師がその視点を持たずに日本語を教えると、学生たちはとても「丁寧」に「インポライト」な日本語を話すようになってしまうかもしれません。

そこで、ポライトネス理論の基本概念と共に、教科書などにある場面や発話例を見ていきましょう。